インド料理といえば、ナンとタンドリーチキンだが、この料理の元は、インド北西部の一地方の料理。
だからこれは、日本料理といえば、寿司とてんぷら、といっているようなもので、ネイティブの日常食ではないのだ。
「南インド料理」の本髄を実践派として日本に紹介し、インド料理に対するこうした偏った常識を覆した立役者の一人が、カレー伝道師・料理人の渡辺玲さんだ。
著書の「カレーな薬膳」(晶文社 2003年)で、ぼくは料理づくりというものに目覚め、以来、今もインド料理づくりのおもしろさにはまっている。
嬉しくて当時アマゾンにレビュー投稿したのだが、抄録すると…。
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この本は料理本としては作りが地味で文章主体。写真は巻頭の数ページだけ。
しかしレシピ本論では、鍋の中でなにがいつどうなってきたらどうする、という細かな指南が丁寧に展開されている。
これを注意深く読みとりながらやってみたら、料理素人の自分でも驚くほどの香り高いインド料理ができてしまったというわけ。
出来上がりや調理の工程を写真で示すことは、実は料理づくりにはほとんど役に立たないのだなあと思った。
美しい写真より、独特の手順を字数を惜しむことなく言葉で詳しく説明してくれている。
たとえば、
「沸騰した気泡のまわりに赤い油が浮いてきたらマサラの完成。そこで鶏肉を投入。ここでぜったいに水をいれないこと」等々。
世の料理本はほとんど、きれいな完成写真で紙面を埋め尽くしている。本づくりの方たちは、書店で客が手に取ったときのアピール力を考えるので写真に頼るのだろう。
しかし料理本はhow-to本であり、写真集ではない。
特にインド料理は、盛りつけを愛でるものではなく、香りを楽しむもの。
香りを引き出すために、材料と数種のスパイスをいつ、どういうときに投入していくかなどのタイミングに関することがインド料理づくりのキモなのだ。
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そう。料理も仕事も出会いも人生も、タイミング。
ゲスト来阪した渡辺さんの料理会では、めったやたらとコーフンして、追い出されそうになったのを思い出す。
あれから10年余。今、病魔に侵されながらも身を賭して活躍する渡辺さんの姿を見かけるたびに、人生に薫りをくれたことに深く感謝をするのです。
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