「働かないアリに意義がある」長谷川英祐(進化生物学者)ヤマケイ文庫
サブタイトルが「社会性昆虫に学ぶ、集団と個の快適な関係」とあるように、「働きアリ」の集団生態の様子を人間社会に例えながら解説した本。
長谷川さんは進化生物学者なのですが、どうも、人間の社会学に関心が強い方のよう。
社会というのは階層(ヒエラルキー)のこと。
アリの社会なら、一匹の女王蜂がいて、周りにオスの働きアリがたくさんいるという構造が特徴。
この本は、アリ社会を克明に観察していくなかで、身に染みる人間社会の例をからませながら、エキサイティングに話を進めていきます。
アリのコロニーで目につくのは働きアリ。このヒトたち、全員が一生懸命働いているのではなく、3つの構造に分かれているというのです。
常に働いている個体は1割だけ。
7割は働かないわけではないが、基本はボーッとしていて、無意味な行動に費やしている。
そして、残りの2割は生涯働かない。
やはりなんだか、人間社会を見回すと思いあたることが次々浮かびます。
しかしこの3つ、たまたま個体差・遺伝でそうなっているんだろ、と思いますか?
それが驚くことに、そのまったく働かない2割だけを取り出して、彼らだけのコロニーを作らせたところ、やがてすぐに、常に働く1割、まったく働かない2割、雰囲気に流されて生きる7割に、見事に分かれるのです。
こうなると、この1割・2割・7割に、なにか強力な意味があるとしか思えない。
しかし、この中の「まったく働かない2割のアリ」に、何か存在理由というものがあるのでしょうか?
この本のキモとなる主張がそこに込められています。
まったく働かない2割の「働かない理由」自体に、コロニーを存続させる重要な使命があるのだということを解明していくのです。
そしてそれが、人間社会にも恐いくらいに当てはまることも。
第一章から、人間社会も学ぶべき、目ウロコのアリ社会の話が爆走。
たとえば。
・アリ社会では、若いときは内勤。歳を取るとコロニー内部から外れて、外回りに出て外環境の見回りの仕事につく傾向がある(経験を生かす)。
・大きなコロニーに所属するアリは体のつくりが雑(大きな組織は分業とシステム化が進んでいて、専門外のことにとんと対応できない)。
・道をまちがえるおバカなアリがいるほうが、コロニーがエサにありつける効率が逆に良く、コロニーが発展する(ルール遵守していればいい組織は環境変化についていけない)。
ひろゆき氏は「引きこもりは、本気を出す時じゃない人」という重要な存在理由があることをこの本に見出し、絶賛。
ただ、そう言われても、アリどうしはディスリ関係がないからいいものの、人間社会の「働かない2割」は、肩身がせまいよね。
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